台風が強くなってきたから休校、だなんて。
この雨の中生徒を帰すなんて、かえって危ないんじゃないの?
そんな事も思ってしまう位の風雨を見つめて、リョーマは下駄箱でたたずんでいた。
たたずんでいたのはあまりの雨に見とれて(呆れて)いたのと・・・リョーマが持ってきたはずの傘がなくなっていたからだ。
朝から小雨が降っていたし、この天気で傘を忘れてくるヤツなんていないと思うのだが、昇降口の傘立てに残っている傘は壊れたものばかり。
男子の傘は似たり寄ったりだから、好意的に考えれば間違えたのかと思うところではあるのだが。
「・・・壊れたのばかり残ってるって・・・」
状況は、好意的には考えにくい。
(この雨では、傘なんてあっても無くても関係なさそうだし。)
かばんを傘代わりに、走り出そうと昇降口を出る。
もう人気のない門までの道のりを、睨むように見つめると、
傘を持っているのに、差さずにひょこひょこと歩いている見覚えのある後姿。
(アイツ、何やってる訳!?)
目標を門までから彼女までに修正すると、一気に走り出す。
「ねぇ!竜崎!」
急に呼び止められて、長い三つ編みがビクッと揺れる。
「・・・リョーマくん・・・びっくりした・・・・」
「オレの方がびっくりしてるんだけど。傘持ってるのに、何やってるのアンタ」
「・・・リョーマくんは、傘忘れたの?」
「オレのは行方不明なの!アンタ持ってるんだから差しなよ」
びしょぬれの、かなり悲惨な格好なのに、桜乃はふふ、と笑った。
その表情が、リョーマの目を捉えて離せなくする。
「最初は、ちゃんと差していたんだけど、傘が風で飛ばされちゃって・・・・。」
「・・・ああ、なんか”らしい”ね・・・」
「追いかけているうちに、びしょぬれになっちゃって。
・・・そしたらね、なんだか、楽しくなってきちゃって」
「・・・・は?」
思わぬ言葉を言う彼女に、返す言葉が見つからない。
「え、えっと、ご、ごめんね、馬鹿なこと言って。りょ、リョーマくん、この傘使う?」
「・・・ピンクだし」
「あ、そ、そうだよね、ご、ごめんね」
くるくる変わる桜乃の姿に、とうとう吹き出す。
「さっきから、青くなったり赤くなったり忙しいね」
「も、もぅ〜〜〜〜」
傘代わりにしていたかばんを、持ちかえる。
「いいや」
「え?」
「走って帰ろうかと思ってたけど、歩いて帰ろうかな。誰かさんのせいで、もうすっかり濡れちゃったし?」
「わ、私のせいなの!?」
「なんか、濡れて帰ると楽しいみたいだし。ネ、リューザキサン?」
「〜〜〜〜〜!」
明日は台風一過で、こんな雨が降ったことも信じられないくらいの
上天気かもしれない。
こんな風に、くだらない事も、今しかできないから・・・・。
「ねぇ、ピンクなのは傘だけじゃないんだけど」
「・・・?」
「(・・・透けてるし)」
050907
雨に濡れすぎて、ぐしゃぐしゃになった靴が楽しくなってしまったことありませんか・・・?
・・・・普通はないのかしら(汗)
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