「ご、ごめんなさ…ッ!」
息をきらしたアイツが走ってきた。
ああ、そんなに走ったら転ぶデショ…?
と思ったら、やはり躓く。
「きゃ…っ!」
と倒れそうになった処を、腕をつかんで体を支える。
「ご、ごめんなさい、リョーマくん」
「違うデショ?」
「え? あ、あの、ありがとう…。」
「ん。」
いつも言っていたことを、最近やっと返してくれるようになった。
『謝るんじゃないデショ?』と。
「そろそろ始まりそうだから、行くよ」
「う、うん」
「それにしても…」
「え?なに?」
「アンタは浴衣とか着ないの?」
「えと…き、着るんだけど…」
俯いてしまう顔を、覗き込む。
「オレには見せてくれないんだ?」
「ち、違うのぅ」
半分泣きそうな言い訳を聞く。
せっかく誘ってもらったのだから、今日は迷惑をかけたくなかった。
慣れない浴衣なんて着たら、何をやらかすかわからないーと。
子供をあやすように、頭を撫でる。
「オレは、アンタを迷惑なんて思ってない。つか、そもそもそう思ってたら、誘わないデショ?」
ん?と確かめるように問う。
オレがそんな面倒なことしないの、アンタが一番わかってるんじゃないの?と。
はっと顔をあげて、アンタは頷いた。
「ごめ…じゃなくて、ありがとう、リョーマくん」
「ン」
「でさ。」
「なに?」
「来年は、浴衣着てきてね」
見えない来年の約束を取り付ける。
ホントは、『来年からずっと』と言いたかったけど。
アンタには、わかんないかもしんないから。
とりあえず、『来年』で我慢してあげる。
「うん…っ!」
見せてくれた笑顔は、今日見たどの花火よりも、夜空に映えた。
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